人気ブログランキング | 話題のタグを見る

ラボミーティングの内容

JCブログ M田

Fumarate is a terminal electron acceptor in the mammalian electron transport chain
Science. 2021 Dec 3;374(6572):1227-1237.

今回の論文は、ミトコンドリア内膜の電子伝達鎖において最終的に電子を受け取る分子が酸素以外にも存在することを哺乳類の細胞で証明した論文です。酸素の使えない状態(低酸素状態)ではフマル酸が電子を受け取り、電子伝達鎖内の電子の滞留を防ぐことで、ミトコンドリア機能や核酸合成反応を維持するとした内容です。
ミトコンドリア内膜には4つのタンパク質複合体(COX IからCOX IV)が存在し、電子をやり取りする反応が起きています。I→IVに向かって電子が流れ、最終的に酸素が電子を受け取ることでこの反応は完結します。この反応は細胞にとってエネルギー源であるATPを作り出すために必要とされます。また、ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ(DHODH)と呼ばれる酵素はミトコンドリア内膜に局在し、電子伝達鎖の中間物質であるユビキノンに電子を預けることでDNA骨格の1つであるピリミジン骨格の合成経路を回すことが出来ます。今回、著者らが目を付けた点は酸素が使えない状態でこれら反応がどうなるのかという点です。これまでの酸素のみが電子受容体であるという考えに則ると、酸素が使えない状態(低酸素状態やミトコンドリア遺伝子の変異によりCOX III以降が機能不全となる状態)では、電子伝達鎖内の電子が行き場を失い、一連の反応が止まってしまうことになります。そうなると、ATPは作れず、DNAも合成できないということになり、細胞は死んでしまいます。しかし、実際は低酸素に曝されている細胞も正常に生きており、むしろ細胞の密度が高く低酸素状態に曝されているがん細胞に至っては盛んに増殖を繰り返しています。このように、これまでの知見(酸素のみが電子受容体であるという知見)では説明ができない点に対して、著者たちは酸素以外にも電子を受け取る物質が存在し、それが電子の行き場を作ることで電子伝達鎖の機能が保たれているのではないかと考えました。
はじめにDHODH(核酸合成経路の酵素)に注目し、酸素が使えない状態でもDHODHによる反応が進むかどうか検証しました。培養細胞(143B細胞;ヒト骨肉腫細胞)を用いてCOX IIIの阻害剤を添加する、あるいは低酸素環境での培養を行ったところ、酸素が使えないにもかかわらず、DHODHによる反応が進むことが明らかとなりました。DHODHはミトコンドリア電子伝達鎖内のユビキノンに電子を渡さないと反応を進めることが出来ないことから、電子を受け取ったユビキノン(ユビキノール)が酸素以外のどこかに電子を吐き出していることが示唆されました。
続いて、その電子がどこに行ったのか解析を進めました。原核生物や一部の寄生虫ではフマル酸がコハク酸になる過程で電子を受け取ることが報告されていたことから、著者らはこの点に注目しました。また、低酸素状態に暴露した細胞や運動後の血中ではコハク酸が増加していることからもフマル酸が関与していると予想しました。低酸素条件で「フマル酸→コハク酸」の反応が哺乳類の細胞でも生じるのか検証するため、アスパラギン酸やグルタミンを安定同位体でラベルし、代謝産物を追いかける実験を行いました。ラベルされた炭素をフマル酸やコハク酸がいくつ含んでいるのか質量分析により調べることで、フマル酸とコハク酸の反応がどちらの方向でどれだけ進んだのか解析することができます。結果、酸素の使えない状態ではやはり、「フマル酸→コハク酸」の反応が生じていることが明らかとなりました。加えて、著者らは「フマル酸→コハク酸」の反応がSDH(コハク酸デヒドロゲナーゼ)により生じていることもSDHのKO細胞を用いることで証明しています。これらの結果から、SDHによる「フマル酸→コハク酸」の反応が低酸素状態での電子のはけ口になっている可能性が示唆されました。
続く実験として、実際に電子がやり取りされているのか検証しました。ユビキノン(電子を持っていない状態)とユビキノール(電子を持った状態)の定量を行った結果、COX IIIの阻害により酸素を使えない状態ではユビキノールが増加しており、このタイミングで「フマル酸→コハク酸」の反応が増加していることが明らかとなりました。この状態でSDHをKOする(「フマル酸→コハク酸」の反応をキャンセルする)とさらにユビキノール量が増加したことから、「フマル酸→コハク酸」反応により電子の行き先を作ってあげることでユビキノールをユビキノンに戻す反応が起きていることが分かりました。また、電子を酸素に受け渡す機能を持ったAOXと呼ばれる酵素(主に植物で発現する酵素)を強制的に発現させるとCOX IIIの阻害によるユビキノールの蓄積は消失し、同時に「フマル酸→コハク酸」の反応も低下することから、電子伝達鎖に電子がたまることで「フマル酸→コハク酸」反応が促されていることも明らかとなりました。
加えて著者らは、この反応がミトコンドリアの機能を保つために働いているかどうか検証しました。電荷を帯びたTMREという蛍光試薬を使用し、低酸素状態でもミトコンドリア内の電気的ポテンシャルが保たれているか解析しました。結果、低酸素環境下では「フマル酸→コハク酸」の反応が生じることでTMREはミトコンドリアに局在することができることが分かりました。このことから、「フマル酸→コハク酸」の反応はミトコンドリア内で電子の滞留を防ぎ、その結果ミトコンドリアの電気的ポテンシャルを保ち、ATP生成機能を維持していることが明らかとなりました。
最後に安定同位体でラベルされたグルタミンをマウスに注入し、低酸素状態で生じるとされる「フマル酸→コハク酸」の反応が生体内で起きているのか検証しました。結果、普段通りに生活しているだけでもいくつかの臓器(腎臓・肝臓・脳)では低酸素による反応が起きていることが明らかとなりました。膵臓に関しては摘出して全身の影響を受けない状態で低酸素に曝すと「フマル酸→コハク酸」の反応が通常の反応に置き換わって生じることが明らかとなりました。低酸素状態を想定し、強度の強いランニングトレーニングを行ったところ、膵臓、心臓および白色脂肪では「フマル酸→コハク酸」の反応が誘導されることが明らかとなりました。以上の結果から、臓器によっては低酸素状態で「フマル酸→コハク酸」の反応が起きていることが明らかとなりました。
結論として、低酸素状態にある哺乳類細胞はSDHにおける「フマル酸→コハク酸」の反応を誘導し、酸素が無いことにより生じたミトコンドリア電子伝達鎖内の滞留した電子を解消することでミトコンドリア機能(ATPの合成、核酸合成)を維持していることが明らかとなりました。今回、生体内のデータは大雑把に見ているため、どれだけ今回の特殊な反応が生理機能に寄与しているかは不明ですが、哺乳類であっても電子を受けとる分子が酸素以外に存在するということで驚きでした。
JCブログ M田_b0136535_20263301.jpg


by Fujii-group | 2022-10-11 20:26 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

分子生物学、運動生化学、生理学研究、の日々


by Fujii-group
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30