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ラボミーティングの内容

JCブログ 匿名筆者H.S

褐色そしてベージュ、ベージュそして筋

Brown and beigeadipose tissue regulate systemic metabolism through a metabolite interorgansignaling axis

Naturecommunication (2021)12: 1950

今回紹介した論文は, 褐色脂肪細胞・ベージュ脂肪細胞の細胞内から輸送される物質が白色脂肪や骨格筋などの脂質代謝を亢進するといった内容です.

褐色脂肪細胞は肩甲骨付近に局在し熱産生を行う組織として知られていますが, それに加え生体の代謝を調節していることが研究により明らかにされ始めています. また, 寒冷環境下では一部の白色脂肪細胞が脂肪を蓄えるのではなく消費し熱を産生することで, 褐色脂肪細胞のような性質を持つことも知られています. こうした褐色脂肪細胞のような性質を持つ白色脂肪細胞はベージュ脂肪細胞と呼ばれています.

筆者らは白色脂肪細胞に褐色脂肪細胞の関連遺伝子の発現を上昇させる試薬を添加しました. 試薬を添加された白色脂肪細胞はベージュ化し, その培養上清を白色脂肪細胞に添加すると, 褐色脂肪細胞関連遺伝子の発現が上昇することが示されました. 白色脂肪細胞の遺伝子に発現変動を与えたベージュ脂肪細胞の培養上清のうち「非タンパク質・水溶性」のもに絞り同様に白色脂肪細胞に添加すると褐色脂肪細胞関連遺伝子の発現が上昇することも示されました. 培養上清の成分を詳しく分析するとMOVA, 5OP, BHIVA, BHIBAがベージュ脂肪細胞の培養上清で増加しており以降はこれらに焦点を当てた実験が続きます.

次に筆者らはMOVA, 5OP, BHIVA, BHIBAを脂肪細胞に添加し, TCA回路に登場するクエン酸, フマル酸, リンゴ酸の塩の量, 呼吸量が増加することを示しました. しかし物質の添加によりカップリング効率は低下することから, ATP合成のための呼吸ではなく, 熱産生による呼吸を活性化させていることがわかりました. 加えて筆者らはこれらの物質がMCT1(Monocarboxylate transporter 1)を介して細胞内から細胞外へと輸送されることを示しています. これらの物質は白色脂肪だけでなく筋細胞の褐色脂肪細胞関連遺伝子の発現を上昇させることが示されています. 物質の添加により筋細胞では脂肪酸β酸化が活性化されており, 白色脂肪と筋細胞ともに代謝が調節されています. これらの物質は試薬によりベージュ化した脂肪で増加し輸送されますが, 寒冷刺激によるベージュ化においても同様の結果が得られました. さらにベージュ化(白色を含む)脂肪細胞ではMOVA, 5OP, BHIVA, BHIBAを合成する酵素の発現も寒冷刺激により上昇しました.

次に筆者らは全身レベルでの表現型に関して解析を行いました. ボランティアを募り脂肪細胞におけるMOVA, 5OP, BHIVA, BHIBAの量とBMIに相関が確認されるか検証しました. 結果は脂肪におけるこれらの物質の量とBMIには負の相関が認められ, UCP1(Uncoupling protein 1), CPT1b(Carnitine palmitoyltransferase1)とは正の相関が認められました. BMIと負の相関が認められたことから, マウスを高脂肪食負荷する際にこれらの物質を飲料水に溶かし込んで投与し代謝解析等を行いました. マウスに高脂肪食を投与すると体重が顕著に増加しますが, これらの物質により体重増加の抑制が認められ, 全身の脂肪量も減少することが確認されました. また, 物質を投与したマウスではエネルギー消費も高くなることが示されており, インスリン負荷試験ではインスリン感受性が高いことが示されています. PET/CT(PET; 放射性ラベルしたグルコース様物質を与えて検体を撮影することで糖取り込みが盛んな細胞・組織を検出する, CT; X線照射により体構造を可視化する, PET/CTは糖取り込みが盛んな部位を体構造と照らし合わせて可視化できる)では褐色脂肪, 前後肢の筋で糖取り込みが盛んであることが示されました.

最後に筆者らはMOVA, 5OP, BHIBAがどのシグナルを介して遺伝子の発現を変動させているか調べました. 脂肪細胞・筋細胞にこれらの物質とともにMCTの阻害剤(α-cyan-4hydroxycinnamate; MCT1,2を主に阻害する)を添加し, 細胞内におけるそれぞれの物質濃度とUCP1, CPT1bの発現量を確認しました. MOVA, BHIBAMCT阻害で細胞内の濃度は減少するものの, UCP1(脂肪細胞において) CPT1b(筋細胞において)の発現量は「阻害剤の添加なし」と比較して変化が確認されませんでした. これはMOVA, BHIBAによるUCP1,CPT1bの発現調節が細胞外のレセプター等を介して行われていることを示唆しています. 逆に5OPは阻害剤を添加すると細胞内での濃度が減少しUCP1. CPT1bの発現量も減少することから, 5OP自体が細胞内で機能し遺伝子の発現を調節することが示唆されました. またこれらの物質による褐色脂肪関連遺伝子の発現上昇は, PKA(Protein kinase A) MAPK(Mitogen-activated protein kinase) mTOR(mammaliantarget of rapamycin)をそれぞれ阻害すると抑制されることからこれらの経路を介し遺伝子を調節していると考えられます.

論文の背景として褐色脂肪・ベージュ脂肪を移植したマウスでは元から存在する褐色脂肪とベージュ脂肪が活性化され, さらに骨格筋でのグルコース恒常性が改善することが知られています. これをもたらす要因として褐色脂肪・ベージュ脂肪からの分泌因子に注目したと考えられます. この部分を読み飛ばして発表を始めてしまい案の定ご指摘いただきました. 論文のデータだけでなく, なぜその研究が行われたのかイントロにも注意を向けたいと思います. また糖代謝と脂質代謝は日々の研究を通し, おぼろげながら掴めてきたもののアミノ酸代謝により生じるMOVA, 5OP,BHIVA, BHIBAに関しては全く無知でした. 先輩にお話を聞くと, どうもこれらの物質をアミノ酸から生成する酵素が骨格筋でも発現しているようで, そうなるとこれらの物質が骨格筋でも自己分泌的に作用しているのではないかとも考えられます

ますますややこしくなってきている気がするのですが, この様な現象を知るたび生命の複雑さに驚くとともに研究することの面白さに惹かれていく次第です.

JCブログ 匿名筆者H.S _b0136535_20192973.jpg
https://www.nature.com/articles/s41467-021-22272-3参照


by Fujii-group | 2021-06-16 20:20 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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