Exercise rejuvenatesquiescent skeletal muscle stem cells in old mice through restoration of CyclinD1
Nature Metabolism (2020)2(4): 307-317
今回紹介した論文は、サイクリンD1という細胞周期に関わる分子が、加齢によって減少するが、運動によって回復し、骨格筋幹細胞であるサテライト細胞の再生能力を改善する、といった内容になります。
細胞周期は、G1→S(DNA合成)→G2→M(有糸分裂)期を循環する生物にとって必要不可欠な機構です。サイクリンD1は、G1期にはたらく分子で、サイクリン依存性キナーゼと結合することで、Rbタンパクをリン酸化し、E2Fの転写を促進します。その結果、S期へ移行し、DNA合成が始まるといった、細胞周期のG1-S期の調節を担っています。
本論文では、若齢と高齢マウスを用いて3週間のホイールランニングによる自発走を実施しました。自発走は、レジスタンス運動や強制運動(トレッドミル走など)と比較して、炎症や損傷を生じないため、筋サテライト細胞が直接刺激を受けることがないため、本実験で採用しています。3週間の安静または運動した若齢または高齢マウスの筋サテライト細胞を単離し、前脛骨筋を損傷させたマウスに移植することで、回復能を検討した結果、安静-高齢マウスは安静-若齢マウスと比較して、回復能が低下する一方で、運動-高齢マウスでは、この低下が抑制されました。
この表現型を受けて、各マウスの筋サテライト細胞を単離し、培養した結果、安静-高齢マウスの筋サテライト細胞は、若齢マウスにおける運動の有無に関わらず、S期への移行が低下していました。しかし、運動-高齢マウスの筋サテライト細胞は、この結果が改善する(S期へ進行する)ことが示されました。
次に若齢および高齢マウスに安静または運動をさせた条件の筋サテライト細胞において、RNAシークエンスによる遺伝子の網羅的解析を実施した結果、安静-若齢マウスに対して安静-高齢マウスは、細胞周期促進、筋形成、Notchシグナル伝達遺伝子セットがダウンレギュレーションする結果になる一方で、安静-高齢マウスに対して運動-高齢マウスは、これらの結果が改善されました。この網羅的解析によって、最も有意に改善される遺伝子を同定したところ、サイクリンD1をコードするCcnd1遺伝子が候補に挙がりました。この結果を、先の条件のマウス筋サテライト細胞を用いてCcnd1遺伝子発現量を確認した結果、個々の筋サテライト細胞において安静-高齢マウスでは、若齢マウスよりも低下しており、運動-高齢マウスでは、発現量が回復する結果が確認できました。この結果は、タンパク発現量とも一致しました。
続いての実験は、サイクリンD1のLoss of functionとGain of functionの実験です。安静-高齢マウスと比較して、運動-高齢マウスの筋サテライト細胞で上昇するサイクリンD1をRNA干渉という技術を用いて、発現量を減少させた結果、S期への移行は、安静-高齢マウスと同レベルまで低下しました。またサイクリンD1を欠損したマウス(KOマウス)と、そのヘテロマウスを用いた場合、ヘテロマウスでは、運動によって運動-高齢マウスと同じ結果が生じるもののKOマウスでは、サテライト細胞がS期へ移行しない結果となりました。一方で、サイクリンD1が過剰発現するプラスミドDNAをレンチウイルスの中に組み込みました。このレンチウイルスを若齢または高齢マウスの筋サテライト細胞に感染させると、運動した時と同様に高齢マウスのサイクリンD1過剰発現の筋サテライト細胞では、S期への移行が生じました。さらに高齢マウスにおけるサイクリンD1を過剰発現させた筋サテライト細胞は、過剰発現していない細胞と比較して、S期への移行が生じました。
最後にサイクリンD1のKO、ヘテロ、野生型若齢、野生型高齢マウスの筋サテライト細胞を用いて、RNAシークエンスを実施しました。その結果、KO、ヘテロマウスにおいて、野生型若齢マウスと比較した結果が、野生型高齢マウスと比較した結果と同様に、細胞周期促進の遺伝子セットがダウンレギュレーションされました。またサイクリンD1と負の相関にある中で最も関連の強いシグナル経路がTGF-β経路であることが推定されました。TGF-β(トランスフォーミング増殖因子-β)は、細胞の増殖抑制、分化やアポトーシスの誘導などに寄与することが明らかとされている分子です。また、この結果と一致してサイクリンD1が負に相関している転写因子の候補から、TGF-β経路の下流にあるSmad3が上位の因子として推定されました。TGF-βは受容体に結合することで、Smad3がリン酸化され、カスケードの活性化に至ります。実際にSmad3のリン酸化レベルは、安静-若齢マウスよりも安静-高齢マウスで有意に高い値を示しています。また安静-高齢マウスと比較して、運動-高齢マウスではSmad3のリン酸化レベルが有意な低下を示しました。この結果は、サイクリンD1遺伝子のヘテロマウスにおいても同様な結果を示しました。さらに、高齢マウスの筋サテライト細胞にTGF-β受容体阻害剤のLY364947を加えた結果、加えていない群と比較して、S期への移行が生じました。これに加えて、Smad3のリン酸化も有意に低下している結果が得られました。
以上の結果より、3週間の自発的な運動は、筋サテライト細胞において高齢マウスの筋の修復能(S期への移行)を回復させることが示された。このメカニズムの1つとして、サイクリンD1の発現が高まり、細胞増殖抑制因子TGF-β – Smad3シグナル伝達軸の抑制が関連していることが示唆されました。


