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JCブログ  M田

TDP-43 and RNA form amyloid-like myo-granules in regenerating muscle
Nature volume 563, pages 508–513 (2018)

今回の論文は、骨格筋や神経の疾患において共通に凝集体として観察されるTDP-43というタンパク質が、健常時の骨格筋細胞内においても、筋再生の際に、RNAと結合して細胞質中で凝集体(Myo-granules)を形成していたという論文です。
TDP-43というタンパク質は、難病指定にもされている筋疾患(封入体筋炎や眼咽頭型筋ジストロフィー症)や神経変性症(筋萎縮性側索硬化症(ALS)や前頭側頭葉変性症(FTLD))において、骨格筋細胞内や神経細胞内に凝集体として観察されるンパク質です。しかしながら、TDP-43の機能については未解明であり、また、凝集体を形成する意味や疾患に共通して観察される理由などについてもよくわかっていませんでした。
そこで、今回著者らは、疾患を患っていない正常な状態において、そもそもTDP-43が何をしているのか調べることとしました。

はじめに著者らは、培養骨格筋(C2C12およびPrimary)でTDP-43の細胞内での局在を観察しました。すると、骨格筋細胞の前駆細胞である筋芽細胞の状態では、TDP-43は核内に存在し、筋芽細胞同士が融合し多核細胞として分化の進んだ筋管細胞では、核内と細胞質中にTDP-43の局在が観察されました。このことから、骨格筋細胞が再生されるタイミングにおいて筋組織内でも同様の局在が観察されるのではないか考え、著者らは続いて筋損傷再生実験を行いました。すると、培養細胞同様に、筋損傷をしていない状態や筋再生が完了しつつある、あるいは完了している状態(損傷後10日や損傷後30日)では、TDP-43は核内に存在し、再生途中の筋細胞(中心核+Embryonic Myosin heavy chain(eMyHC)ポジティブ)においては、細胞質中にTDP-43の局在が観察されました。

続いて、病理所見においてTDP-43は凝集体を形成することから、筋再生中の細胞質においてもTDP-43が凝集体を形成しているかどうか調べることとしました。解析方法としましては以下の方法を用いました。
①細胞懸濁液の組成を変えてウエスタンブロット(RIPAバッファーのみの懸濁と尿素添加による懸濁の比較)
②SDSに耐性がある構造物(アミロイド様物質など)が形成されているかどうかをSDD-AGEというゲル電気泳動により解析
③TDP-43の免疫沈降を行いTDP-43にくっついてきた物質を透過型電子顕微鏡で観察する
④TDP-43の免疫沈降によってくっついてきた物質をX線解析
⑤(上記①-④から、アミロイド様物質であることが予想されたので、)アミロイド線維の中間体を認識する抗体(A11抗体)による染色
上記解析の結果から、筋再生(筋管が形成される時期)の際にTDP-43が細胞質中で、アミロイド様の顆粒を形成していることが判明しました。著者らはこれを「myo-granules」と名付けました。

著者らは次に「myo-granules」内にないが含まれているのか調べました。もともと、TDP-43はRNAとくっつく性質があるタンパク質であるため、凝集体内にRNAが含まれていることを予想し解析を行っていきました。TDP-43の免疫沈降を行うことで、myo-granulesを回収し、Oligo-dTによるノーザンブロットを行いました。その結果、myo-granules内にmRNAが存在することが示唆されました。そこで著者らは、TDP-43にくっつくRNAをenhanced ultraviolet-light crosslinking and immunoprecipitation(eCLIP:UVを事前に細胞などに当てることで、タンパク質とRNAの間に架橋構造を形成し、タンパク質-RNA複合体が外れないようにした状態で、タンパク質を認識する抗体を用いて免疫沈降を行う)と呼ばれる手法によって回収し、そのRNAを用いてRNA-seqを行うことにしました。TDP-43が細胞質に現れ凝集体を形成しているとされる筋管細胞において、TDP-43のeCLIPによるRNA-seqを行ったところ、TDP-43は各遺伝子の翻訳の際の読み枠であるCDSに主にくっついていることが示されました。また、どんな遺伝子が主にTDP-43にくっついているのかGO Termによる解析を行ったところ、サルコメアを構成するタンパク質のmRNAに結合していることが示唆されました(具体的には、Myosin重鎖・軽鎖、トロポミオシン、トロポニンなどがあげられています)。RNA-seqにより検出された遺伝子に対するin situ ハイブリダイゼーションとTDP-43の免疫染色を同時に行った結果からも両者は筋管細胞内で共局在している様子が示されました(読者の意見:eCLIPによるRNA-seqで引っかかってない遺伝子かつ筋管細胞で発現している遺伝子においてTDP-43とその遺伝子が共局在しないというデータは無いのか気になった→論文中には見当たらず)。以上の結果から、著者らはmyo-granules内には、サルコメア構造を構成するタンパク質のmRNAが含まれていることを示しました。

次なる実験として、TDP-43が筋再生にそもそも必要であるかどうかを解析しました。CRISPR-Cas9を用いて、C2C12細胞からTDP-43をKOした細胞を形成し、解析を行ったところC2C12の増殖能が減少することが示されました(EdUポジティブが減少)。そこで、タモキシフェン誘導型のPax7-Creマウスを用いてTDP-43をサテライト細胞特異的にKOし、筋損傷再生実験を行ったところ、損傷10日目において筋断面積がKO群で小さくなることが明らかとなりました。以上より著者らは、TDP-43は筋再生において必要な分子であると結論づけています。※サテライト細胞数そのものは変化しなかった様子です。

更なる実験として、著者らはmyo-granulesがヒトにおいて存在するのか解析を行いました。横紋筋融解症などにより、筋細胞が壊死した患者さんから検体をいただき、TDP-43およびA11の染色を筋横断切片により行ったところ、マウスの筋損傷再生実験同様に、eMyHCポジティブの筋細胞質中において、TDP-43およびA11の局在が確認されました。このことから、ヒトにおいてもTDP-43がアミロイド様の構造物を作製している可能性が強く示唆されました。

また、筋疾患モデルマウス(VCP mutantマウス:封入体筋炎モデルマウス)においても著者らは解析を行っている。何も損傷刺激を与えていないVCP mutantマウスにおいて、サテライト細胞から形成されたであろう再生途中の筋細胞(中心核かつその核がEdUポジティブな筋細胞)において、TDP-43とA11の細胞質中での共局在が確認されました。

最後に著者らは、TDP-43自体が持つ機能の一端を明らかにするべく、myo-granulesに対し、TDP-43の添加実験を行いました。すると、myo-granules同士を単体で撹拌させた場合に比べ、TDP-43のリコンビナントタンパク質を加えてmyo-granules同士を撹拌させた方が、より大きく長時間かけてアミロイド様の凝集体が形成されたことがin vitroの実験において示されました。

以上より、著者らは筋や神経疾患にみられたTDP-43が、疾患でない場合においても筋再生時において細胞質で発現することを明らかにしました。また、TDP-43はRNAを内包したアミロイド様の凝集体として存在していることも明らかしました。加えて、TDP-43は筋芽細胞の増殖を維持することで、筋形成に関与することも示されました。そして、TDP-43そのものが存在することにより、アミロイド様も物質の凝集が促進されることが明らかとなりました。

TDP-43のRNAへの選択性については疑問の残る結果でした。また、そもそもTDP-43がRNAを内包して何をしているのか。さらには病態モデルにおいて結局のところTDP-43が何をしているのかについてはまだわからないといった様子でした。しかしながら、そもそも機能未知であったTDP-43に関して、あらゆる分野のあらゆる角度から、その正体の一端を明らかにしたこの論文は、これからの研究の土台になるという意味で必要な論文なのではないかと個人的には思いました。
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by Fujii-group | 2019-01-08 17:09 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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