JC三田

Injury-Induced Senescence Enables In Vivo Reprogramming in Skeletal Muscle
Cell Stem Cell
Volume 20, Issue 3, 2 March 2017, Pages 407-414.e4

今回の論文は、損傷した骨格筋内で細胞のリプログラムがおこりやすいことを示した論文です。損傷した骨格筋組織内では、急激に老化細胞が増加し、その老化細胞がIL-6を分泌することで、骨格筋組織内の筋幹細胞(サテライト細胞)や間葉系前駆細胞のリプログラムが促進されるという内容です。

DNAへのダメージやがん遺伝子の活性化により、細胞はがん抑制遺伝子を活性化させ、細胞老化を誘導します。細胞老化をおこした細胞は、不可逆的な増殖の停止、細胞の扁平化、SA-βGalの活性化をおこします。また、それに付随してサイトカイン遺伝子群の発現(SASP)がおこります。SASPは、老化細胞周囲の細胞環境を変えることで組織全体の機能や病態に関連するとされています。

一方で再生医療の研究として、生体内での細胞のリプログラム(例:膵臓のα細胞からβ細胞を生み出す)により損傷した組織を再生しようとする試みが行われてきました。ここで興味深いことに、膵臓や肝臓では、これら組織に対して損傷を与えた時の方が何もしていない時に比べ、リプログラムがおこりやすいという結果が報告されています。

今回著者らは、筋損傷により骨格筋組織内に老化細胞(SA-βGal陽性細胞)が蓄積することに注目し、筋損傷、細胞老化および細胞のリプログラムそれぞれの関係性について研究を行いました。

今回実験に使用したマウスは、薬品(DOX)を投与することで全身のいたるところにiPS細胞が誘導されるというマウス(i4F)です。このマウスの前脛骨筋に筋損傷薬剤(CTX)を打ち込み、同時にDOXを投与してiPSの発現を誘導すると、前脛骨筋内に異形成(腫瘍の一歩手前)が観察されました。また、同時に多能性マーカーであるNanogを発現する細胞が異形成の中に観察されました。別の筋損傷モデルとして、筋ジストロフィーモデルマウス(DMD)でも実験を行いました(i4FとDMDを掛け合わせて、慢性的に筋損傷がおきているi4Fマウスを作製し、DOXを投与した)。観察の結果、CTXでの損傷と同様に、前脛骨筋内には異形成や奇形腫(三胚葉性の腫瘍)が観察されました。(※DMDでないi4Fマウスに、DOX投与のみあるいはCTXでの筋損傷のみを行った場合では、異形成や奇形腫は観察されませんでした。)
このことから、筋損傷が骨格筋組織内でのリプログラムを促進していることが明らかとなりました。

リプログラムされた細胞は、元々どんな細胞であったのか確かめるための実験を行いました。筋の幹細胞であるサテライト細胞に著者らは注目し、サテライト細胞およびサテライト細胞から分化した細胞でGFPが発現するマウス(Pax7CT2;R26mT/mG)を使用しました。Pax7CT2;R26mT/mGとi4Fを掛け合わせて、DOX投与およびCTXにより筋損傷をおこすと、前脛骨筋内で前述同様に異形成や奇形腫が観察されたのですが、それら異形成や奇形腫のほとんどがGFP陽性であることが判明しました。
これにより、リプログラムされた細胞のほとんどは、元々サテライト細胞であることが示されました。

先行研究において筋損傷により筋組織内に老化細胞が急激に蓄積すること、および多能性マーカーであるNanogを発現する細胞が、SAβGal陽性細胞の近傍に位置することから、組織切片あたりのNanog陽性細胞数とSAβGal陽性細胞数の関係を観察しました。その結果、両者には正の相関があることがわかりました。
そこで、i4F老齢マウス(20カ月齢)とi4Fに放射線を照射したマウスを用意し、老化細胞が蓄積された条件で、筋損傷およびiPS細胞の誘導を行いました。すると、Nanog陽性細胞が筋組織内でコントロール群に比べて増加していることが明らかとなりました。
反対に、老化細胞を除去する薬剤(Senolytic drug)であるABT263を投与したi4Fマウスや、老化細胞を細胞死へ追いやる遺伝子組み換えマウス(p16-3MR)と掛け合わせたi4Fマウスでは、老化細胞の減少によってNanog陽性細胞が減少することがわかりました。

さらに、著者らはSASPとして筋再生に関連のあるIL-6が老化細胞から分泌されることに注目し、IL-6と筋損傷によりリプログラムが促進されることとの関係性を調べることとしました。IL-6の抗体を腹腔内に投与した結果、筋損傷により生じるNanog陽性細胞数が減少することがわかりました(i4Fの誘導により奇形腫が原因で死亡するマウス自体が、IL-6抗体の添加により減少したデータも報告されています)。培養細胞の実験においても老化細胞とi4F由来のサテライト細胞を共培養すると、コントロールに比べリプログラムが促進され、さらには、IL-6のリコンビナントを加えるとよりリプログラムが誘導され、IL-6の抗体を入れると反対にリプログラムが阻害されることも確認されました。

以上より、筋損傷は筋組織内で細胞老化を引き起こし、細胞老化した細胞からSASPとしてIL-6が分泌され、それが主にはサテライト細胞に働き、リプログラムを誘引することが明らかとなりました。

この現象はi4Fマウスを用いたことで観察された現象ですが、正常な組織内においても、組織が再生する際に、老化細胞がSASPを介して組織の再生を促す環境を形成しているのではないかと思わせるような論文でした。
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by Fujii-group | 2018-09-01 16:54 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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