M田君 JCまとめ

Cell Reports 18, 2320–2330 March 7, 2017
R-spondin1 Controls Muscle Cell Fusion through Dual Regulation of Antagonistic Wnt Signaling Pathways
Lacour F, Vezin E, Bentzinger C. F, Sincennes M, Giordani L, Ferry A, Mitchell R, Patel K, Rudnicki M A.,Chaboissier M,Chassot A, Grand F L.

今回紹介した論文は、R-spondin1(Rspo1)がWnt/β-catenin(標準型)とWnt7a/Fzd7/Rac1の経路(非標準型)を介して、 筋細胞の融合や遊走に関与しているという論文です。
Rspo1はRspoファミリーの一つで、Wntシグナルを活性化する分子として報告されています。
Wntシグナルが筋発生や筋再生に重要であることや、Pax7(休止期のサテライト細胞特異的に発現する転写因子)を過剰発現する筋芽細胞でRspo1の発現が上昇してきたことを踏まえ、著者らはRspo1が筋再生過程に関連するのではないかと考え実験をスタートさせました。
はじめに、サテライト細胞でのRspo1の発現をみると、休止状態(解剖直後の筋線維上のサテライト細胞)、活性化状態(サテライト細胞を24時間筋線維上で培養)および、分化初期(筋芽細胞を24時間分化培養)においてRspo1の発現が確認されました。
続いて、Rspo1の機能を調べるためRspo1KOマウスを作製し、解析しました。筋損傷再生実験を行ったところ、損傷4日目ではMyogenin(分化初期の筋芽細胞・筋管細胞で発現する)陽性細胞数が減少し、筋線維の内側に融合した細胞核数もRspo1KOでは減少していることが観察されました。損傷7日目では、筋線維の再生そのものに野生型とRspo1KOで差が無いものの、筋線維の内側でMyogeninを発現している細胞(分化しきれていない細胞)が増加していることが明らかとなりました。一方、損傷62日目では、野生型に比べてRspo1KOでは、筋断面積および筋重量が増加していることが明らかとなりました。さらには、筋量が増加したことに合わせて、筋力も上昇していることが分かりました。
さらに詳細にRspo1の機能を追うため、MACSを用いてRspo1KOからサテライト細胞を単離し、分化培養を行うことでRspo1の筋再生に対する影響を観察しました。Rspo1KOではMyogeninを発現するタイミングが野生型に比べて遅延していることが明らかとなりました。続いて、Rspo1が制御しているシグナル経路を解析するにあたり、野生型とRspo1KO由来のサテライト細胞でマイクロアレイによる網羅的遺伝子発現解析を行いました。解析の結果、筋分化後の骨格筋細胞を構成している分子や筋分化を促進する転写因子群の発現がRspo1KOで低下していました。また同時に、Wntシグナルに関する遺伝子の発現も低下していることが明らかとなりました。
WntシグナルとRspo1の関係を調べるため、Rspo1KOにおいて活性化剤(CHIR99021:β-cateninの分解をするGSK3βの阻害剤を添加)を用いて強制的に標準型Wnt経路を活性化しました。結果、Rspo1KOで観察されたMyogeninの発現遅延がおこらなくなったことから、Rspo1は、標準型Wnt経路を介して、筋分化のスイッチを適切なタイミングで活性化していることが明らかとなりました。
続いて、Rspo1KOで再生後の筋断面積が増加していたことに関して、筋芽細胞の分化能力に焦点を当てて解析を行いました。分化誘導を4日間行い、筋分化のマーカーであるMyHCを免疫染色により染色したところ、野生型に比べてRspo1KOにおいて筋管細胞の肥大化が観察されました。また、活性化剤(CHIR99021)を用いて標準型Wnt経路を活性したところ、太い筋管が形成されず、反対に細胞融合が阻害されました。以上より、Rspo1は筋分化の際に標準型Wnt経路を介して、筋芽細胞の融合を抑制している分子であることが明らかとなりました。
続く実験では、Wntシグナルの別の経路である非標準型Wnt経路による影響を解析しています。先行研究よりWnt7aによる非標準型Wnt経路が、サテライト細胞の遊走を促進することから、Rspo1と標準型Wnt経路の関係を調べました。細胞のいる培養皿にひっかき傷をつけ、24時間後に細胞のいなくなった所へ、どれだけの筋芽細胞が遊走していくか観察を行ったところ(Scratch-wound assay)、Rspo1KOでは傷をつけた位置に遊走している細胞が増加していました。また、培養皿上での遊走速度もRspo1KOでは上昇していました。Rspo1KOでの遊走のしやすさがWnt7aの経路を介しているか調べるために、Wnt7aの受容体であるFzd7をsiRNAにより発現抑制(Fzd7KD)して、再度Scratch-wound assayを行いました。その結果、Fzd7KDではRspo1KOで観察された遊走細胞の増加が、野生型程度まで減少することが明らかとなりました。加えて、Fzd7KDおよび非標準型Wnt経路の下流にあるRacを薬理的に阻害した条件(EHop-016添加条件)では、Rspo1KOで観察された筋管細胞の肥大が抑制されました。Rspo1KOによりFzd7の発現が上昇していることも踏まえて、Rspo1は非標準型Wnt経路であるWnt7a/Fzd7/Rac1の経路を抑制し、筋芽細胞の遊走や融合を抑制していることが明らかとなりました。
以上より、Rspo1は標準型Wnt経路(Wnt/β-catenin経路)を活性化する一方で、非標準型Wnt経路(Wnt7a/Fzd7/Rac1経路)を抑制することで、筋芽細胞の分化のタイミングを制御し、筋芽細胞の遊走や融合を抑制することで筋再生に関与することが明らかとなりました。
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今回の論文はRspo1がWntの経路を介して、筋再生に関与していることはわかりました。しかしながら、Rspo1、標準型Wnt経路、および非標準型Wnt経路の三者の関係性については、未解明であり更なる解析が必要と考えられます。


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by Fujii-group | 2018-05-19 11:07 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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