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ラボミーティングの内容

JCの内容(I上)

先日行われたジャーナルクラブで紹介したまとめです。4年生になって初めての担当でした。

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CDK4 and cyclin D1 allow human myogenic cells to recapture growth property without compromising differentiation potential
Gene Therapy (2011) 18, 857–866; doi:10.1038/gt.2011.44; published online 14 April 2011
K Shiomi, T Kiyono, K Okamura, M Uezumi, Y Goto, S Yasumoto, S Shimizu and N Hashimoto

ヒトの筋肉の病気を解明するためには、ヒト筋細胞を使用した研究が不可欠です。しかし、培養細胞は継代を重ねると、増殖・分化能力がだんだんと損なわれていきます。そこで筆者らは、先行研究で行われたヒト未分化筋細胞の不死化プロトコルを改善し、不死化ヒト未分化筋細胞の系統を樹立しました。
先行研究では、「Hu5/E18」という、Hu5(初代培養ヒト未分化筋細胞)を hTERT(テロメラーゼの逆転写酵素) と 16型ヒトパピローマウイルス遺伝子 E7 の発現によって不死化した細胞を作製に成功しました。しかしHu5/E18は、分裂にかかる時間が長い(35 h;初代培養細胞より約12 h長い)、E7が細胞の他の機能に影響を与える恐れがある、という問題点を抱えていました。さらに今回の論文において、Hu5/E18は筋管分化の間に核が分裂してしまう新たな問題が発覚しました。
そこで筆者らは、Hu5にCDK4R24C(変異型サイクリン依存的キナーゼ4)、サイクリンD1、hTERTの3つの遺伝子を強制発現させ、効率的に不死化することに成功しました。これらの3つの遺伝子のうち、CDK4R24CとサイクリンD1を、ヒトサイトメガロウイルス最初期プロモーターの制御下で発現している不死化細胞を「Hu5/KD」、Tet-Off® System 制御下で発現している不死化細胞を「Hu5/TKD」と名付けました。
Hu5/KDとHu5/TKDは、初期継代の間の初代培養ヒト筋細胞と同じくらいの速度で分裂し、適切な培養状況の下で、骨形成と脂肪生成分化を経ました。また、筋損傷をした免疫不全マウスの筋にHu5/KD、Hu5/TKDを移植したところ、これらの細胞は筋線維へと分化しました。なお、分化したあとで核が分裂することはありませんでした。
Hu5/TKDをドキシサイクリン処理した実験により、ヒト未分化筋細胞の増殖能力は、CDK4R24CとサイクリンD1に完全に依存していることがわかりました。
CDK4R24C、サイクリンD1、hTERTの3つの遺伝子の発現は、リー病患者に由来する未分化ヒト筋細胞も不死化しました。
この論文において発表された不死化プロトコルは、ヒト未分化筋細胞の倍加時間と分化ポテンシャルを損なうことなく、高い増殖能力を取り戻すことが可能となりました。ただし、CDK4R24CとサイクリンD1複合体の活性がとても高いため、ターゲットではない何か他の分子をリン酸化してしまう可能性を捨てきることはできません。


by Fujii-group | 2016-10-20 17:46 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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