レフコウィッツ博士とコビルカ博士

教授のブログ、ノーベル賞に関係した第三弾目です。

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ポスドクとしての受け入れを打診する際は、50から100の研究者に手紙を書くのが常識だと、よく言われた。一流の研究者には世界中からオファーが集まり競争も激しいから、それくらいの苦労は厭うなという意味だろう。実践した猛者もいる。わたしは思い入れのある研究者のところに行きたかったので、20ほどをリストアップして、4研究者ずつ5回に分けて手紙を送ることにした。1回目の戦績は1勝3敗で、受け入れの返事が1件、断りの返事が1件、そして返事が無かったのが2件だった。ベスト4の1つから承諾をもらえたのは幸運と考え、グッドイヤー博士の研究グループに参加することを決めた。そこでの経験は、いま振り返ってみても素晴らしく、受け入れてくれたことに深く感謝している。

外国でトレーニングを受ける準備ができたと感じた頃、わたしが真っ先に考えた研究者は、じつはベスト4の中の他の二人だった。一人はレフコウィッツ博士。Gタンパク質共役型受容体の神様と勝手に呼んでいたほど、大学院・ポスドク時代には彼の研究に傾倒した。ホルモンなどの液性因子は、細胞膜表面から突き出る受容体に結合することで、細胞に作用を生じさせる。これは「鍵と鍵穴」の関係に例えられ、アドレナリンはアドレナリン受容体とは結合できるが、他のホルモンの受容体とは結合できない。鍵と鍵穴の形が合わないからだ。鍵穴にあたる受容体の存在は、元々は薬理学研究の結果から推測されたものだった。集積した知見はその存在を強く予想していたので、研究者は細胞膜には受容体があるものとして研究を進め、実際に多くの重要な発見がなされた。しかし、目に見えない対象を相手にしていることに変わりはなかった。それを見える存在としたのがレフコウィッツ博士だった。

彼はアドレナリンに放射性物質で目印を付け、それと結合する受容体が細胞膜表面にあることを確認し、さらに受容体数および結合親和性を見出す手法を考案した。これによって、Gタンパク質共役型受容体の特徴が詳しく解析できるようになった。さらに彼の弟子にあたるコビルカ博士が遺伝子クローニングの手法を導入し、受容体を分子として、つまり目に見える物質として扱えるようにした。わたしの二人目の神様で、彼の当時の論文は、ほぼ全て読んだ。彼らの研究の結果、鍵と鍵穴の形がホルモンの作用を特徴づけていることが分かった。驚くべきは、実際に分子の形で受容体を分類してみると、目に見えない存在として薬理学的に行われた分類に、よく一致したことだ。彼らは新しい分野を拓くとともに、薬理学のすごさをも証明したのである。

2012年のノーベル化学賞は、わたしの神様二人に贈られた。研究対象が変わったいまでは、二人の論文を読むこともなくなったが、受賞の報にあの頃の想いが蘇った。レフコウィッツ博士からの断りの手紙は、ハワード・ヒューズのレター・ヘッドに自筆のサインがあって、いまでもわたしの大切な宝物だ。

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by Fujii-group | 2012-10-27 15:19 | 研究に関連する話 | Comments(0)

分子生物学、運動生化学、生理学研究、の日々


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