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研究に関連する話

山中伸弥博士

教授がノーベル賞に関するブログの記事を書いてくださいました。
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 山中伸弥博士が2012年度のノーベル生理学・医学賞を受賞された。iPS細胞(人工多能性幹細胞)の作製樹立からわずか6年でのスピード受賞に、異を唱える科学者はいないだろう。わたしも心から祝福したい。
わたし達の身体は約60兆個という途方もない数の細胞からできている。けれども元は、たった一個の細胞、つまり卵子を原初として身体づくりが始まっている。卵子が2つ、さらに4つと、倍々に分裂して細胞が増えていくのだが、ある過程で皮膚になる細胞には皮膚の特徴が与えられ、筋肉になる細胞には筋肉の特徴が与えられていく。つまり卵子は身体のどの部分にも変身できる万能細胞なのだが、いったん皮膚になってしまった細胞は来た道を引き返して筋肉細胞に変化したり、あるいは卵子のように何にでも変身できる細胞には戻れない、というのが生物学・生命科学の常識とされていた。山中博士がiPS細胞の作製に成功するまでは。山中博士は、皮膚から取った細胞に数種類の遺伝子を導入することで、どんな細胞にでも変貌できる万能細胞を樹立した。これの意味することは、自分の皮膚を削り取ることで、自身に移植するための肝臓や膵臓の細胞を作り出す可能性が現実味を帯びたということだ。再生医療や臓器移植医療に、陽の光が差し込んだのだ。
わたしが大学院生やポスドク(博士取得後研究員)をしていた頃は、「物理学は成熟した科学、生物学は未熟な科学」と冗談交じりに揶揄された。理由は、「生物学は未だコペルニクス的転回を経験していないから」。iPS細胞は、最終駅まで行き着いた細胞を、多能性幹細胞に引き戻せることを証明した。これはコペルニクス的転回と呼んでいいと思う。生物学が成熟した瞬間だと、授業では話している。
山中博士とは一度だけお会いしたことがある。わたしがボスドクだったころ技術交換のためによく訪れていた大阪市立大学医学部の研究室に、山中博士が米国での留学を終えて戻ってこられたのだ。「この研究室にも分子生物学のできる人が来てくれました」と紹介された。当時はiPS細胞の萌芽はまだなかったか、あっても具体的な実験には入られていなかったのではないか。その後のご活躍と、その裏で大変なご苦労に耐えておられた姿勢には、ただただ頭が下がるし、同業者として襟元を正される。山中博士とともにiPS細胞樹立に直接関わった高橋和利博士(当時は学生)の言葉が強烈に胸に刺さる。「(成功の瞬間のことは)実はあんまりよく覚えていないのです。というのは、これまで12年間、山中先生にご指導いただいて、研究をずっとやっているわけですが、千ページ以上ある実験ノートの中のたった1ページの出来事。僕にとって特に印象深いことではありません。僕としては同じぐらい大胆な実験は毎日やっているつもりです(朝日新聞)」
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by Fujii-group | 2012-10-12 19:03 | 研究に関連する話 | Comments(0)

分子生物学、運動生化学、生理学研究、の日々


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