M田君 JCまとめ

mTORC1 and muscle regeneration are regulated by the LINC00961-encoded SPAR polypeptide
Nature 541, 228–232 (12 January 2017)

今回の論文は、タンパク質として翻訳されないと考えられていたNon-cording RNA(LINC00961)から、ポリペプチド(SPAR)が翻訳されており、それがmTORの経路を抑制して筋再生を負に制御していたという内容の論文です。

RNAとして転写調節や翻訳調節の機能を持つNon-cording RNAですが、最近の研究により一部のNon-cording RNAでポリペプチド(100アミノ酸程度)が翻訳されることがわかってきました。しかしながら、その機能については未解明な点が多く、解析が待ち望まれていました。
著者らは、Non-cording RNAとして報告されている配列の中から、開始コドンを持ち、翻訳される可能性のある配列(LINC00961)を見つけ出し、それが90個程度のアミノ酸として翻訳されていることを見出しました(Ex. Data Fig. 1 & Fig. 1)。また、翻訳されるアミノ酸配列内に膜貫通領域があることが予測されたことから、遠心分離により精製した膜画分のウエスタンブロットによる解析と免疫染色による解析を行ったところ、LINC00961により翻訳されるポリペプチドは、細胞質側にその大部分を突き出しており、N末側で膜に貫通し、後期エンドソームあるいはリソソームに局在することが判明しました(Ex. Data Fig. 2 & Fig. 1)。さらに、後期エンドソーム/リソソームに局在しないタンパク質(CD8)のC末の配列をLINC00961により翻訳される配列のC末と入れ替えると、CD8が後期エンドソーム/リソソームに局在したことから、LINC00961により翻訳されるポリペプチドのC末には、後期エンドソーム/リソソームに輸送されるシグナル配列があることがわかりました(Ex. Data Fig. 2)。
続いて、LINC00961がどんなタンパク質と結合するのかを調べました。LINC00961のC末にFlagタグをつけ、HEK293T細胞に強制発現させた後、Flagで免疫沈降を行い、落ちてきたタンパク質をSDS-PAGEにより分離し、銀染色により現れたバンドを、それぞれ質量分析(LC-MS/MS)にかけたところ、v-ATPase複合体のサブユニットが一緒に落ちてくることがわかりました(Ex. Data Table 1)。強制発現させた細胞の抽出物をFlagで免疫沈降した結果と、免疫沈降とGSTプルダウンを併用した細胞外でのLINC00961によるペプチドとv-ATPaseサブユニットの結合解析の結果から、LINC00961によるペプチドは確かにv-ATPaseと結合することが確認されました(Fig. 2)。
この結合が実際に、どんな経路に関わっているのかを解析するために著者らは、v-ATPaseとmTORの経路に注目しました。先行研究により、v-ATPaseとmTORC1は、Ragulator-Rag複合体やRhedを介してリソソーム膜上で結合することが報告されています。アミノ酸刺激依存的にRagulator-Rag複合体がv-ATPaseから解離し、解離したことでRagのGTP/GDP変換による活性化が起こり、mTORC1がリソソーム膜上にけん引され、mTORC1の経路がONになるとされています。先行研究を踏まえ、著者らは、LINC00961によるペプチドがmTORの活性を調節するかどうか解析を行いました。HEK293T細胞にLINC00961により翻訳されるペプチドを強制発現させ、mTORの下流にあるS6K, S6, 4EBPのリン酸化をウエスタンブロットに定量しました。すると、LINC00961ペプチドの強制発現により、アミノ酸刺激によるmTORの活性化が抑制されていることが明らかとなりました(Fig. 2)。反対にLINC00961によるペプチドの発現量をRNA干渉により翻訳抑制すると、コントロールよりもmTORの活性化が亢進していることがわかりました(Fig. 2)。また、ミトコンドリア輸送シグナルをLINC00961ペプチドに人為的に組み込み、LINC00961ペプチドをミトコンドリアに無理やり輸送させると、アミノ酸刺激依存的なmTOR経路の抑制が起こらないことがわかりました(Ex. Data Fig. 4)。しかし、このmTOR経路の抑制はアミノ酸刺激依存的な場合に限った反応であり、インスリンやEGF、ロイシン単体、アルギニン単体刺激によるmTOR経路の活性化を抑制することはありませんでした(Ex. Data Fig. 5)。以上より、著者らはLINC00961により翻訳されるペプチドを‘small regulatory polypeptide of amino acids response’ (SPAR)と名付けました。
次に著者らは、SPARがアミノ酸刺激依存的なmTORの活性化をどのように抑制しているのか調べました。アミノ酸刺激によるmTORのリソソームへの移行、Ragの恒常活性型に対するSPARのmTOR経路抑制度合、v-ATPase抑制によるmTOR経路抑制に対するSPARのmTOR経路抑制度合をそれぞれみたところ、SPARの抑制が働くタイミングとして「①アミノ酸刺激→②v-ATPaseとRagulator-Rag複合体の解離→③v-ATPaseによるRagの活性化→④mTORのリソソームへのけん引と活性化」という流れの中の②よりも上流に位置していることがわかりました(Fig. 3)。
以上より著者らは、SPARはリソソーム膜上でv-ATPaseに結合し、アミノ酸刺激依存的なv-ATPaseとRagulator-Rag複合体の解離を妨げ、mTORの活性化を抑制しているのではないかというモデルを立てました(Fig. 3)。
SPARによるアミノ酸刺激依存的なmTOR経路の抑制が生理的にどんな意味を持つのか解析するために、CRISPR/Cas9システムを用いて、SPAR開始コドン欠損マウス(SPAR-/-マウス)を作製しました(Ex. Data Fig. 7)。
先行研究により、mTORの活性が筋再生に重要であることが報告されていることから、著者らは、Spar-/-マウスを用いてCTX(筋損傷を起こすヘビ毒)による筋損傷再生実験を行いました。その結果、筋損傷させたSpar-/-マウスにおいて、損傷7日目で野生型マウスに比べ、損傷により現れる中心核筋細胞の断面積が大きいことが明らかとなりました(Fig. 4)。また、組織免疫蛍光染色により、筋幹細胞数(Pax7)、分化マーカー(Myogenin)発現細胞数、筋幹細胞の中での増殖マーカー(Ki67)陽性細胞数をそれぞれ計測してみると、損傷させたSpar-/-マウスにおいて、野生型に比べ、それぞれの細胞数が上昇していることが明らかとなりました(Fig. 4)。しかし、これらSpar-/-マウスの結果は、ロイシン欠損飼料飼育によってキャンセルされてしまうこともわかりました(Fig. 4)。
今回の結果は、Non-cording RNAが翻訳するペプチドは、実はノイズではなく、機能があることを提示するものとなりました。どこのアミノ酸が実際には効いているのか、アミノ酸刺激とロイシン・アルギニン刺激の兼ね合いがどうなっているのか、あるいは損傷に応答したSPARの発現抑制は何によって制御されているのかなどについてはさらなる解析が必要と思われます。
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by Fujii-group | 2017-10-27 11:05 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)