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ラボミーティングの内容

JCまとめ(T橋)

2017, Nature Communications 8, 14328
Pten is necessary for the quiescence and maintenance of adult muscle stem cells
Feng Yue, Pengpeng Bi, Chao Wang, et al.

 今回の論文はPtenがサテライト細胞の休止状態の維持に必要であるという内容です。サテライト細胞は骨格筋の組織幹細胞であり、骨格筋の再生で中心的な役割を果たします。サテライト細胞による骨格筋の再生は内的・外的な様々な因子によって制御されていることが知られています。先行研究では、Ptenが神経幹細胞や造血幹細胞の自己複製や分化を制御することが示されました。そこで著者らは骨格筋の再生を制御する新たな因子の候補としてPtenに着目しました。PtenはインスリンシグナルにおいてPIP3を脱リン酸化する酵素でありAktのリン酸化を負に制御します。

 サテライト細胞でのPtenの発現を調べたところ、休止期または活性化したサテライト細胞にのみ発現していることが分かりました。骨格筋再生におけるPtenの機能を明らかにするために、著者らはサテライト細胞特異的にPtenをKOしたマウスを作製し表現型解析を行いました。結果、PtenKOマウスでは休止期サテライト細胞数が減少しており骨格筋の再生能力が低下していることが明らかとなりました。これは、PtenをKOしたことによってサテライト細胞が休止性を失い分化に進行したためです。

 続いて著者らはPtenによる休止期サテライト細胞数の減少がどのようなメカニズムを起こっているのか調べました。PtenをKOするとAktのリン酸化が上昇することから、著者らはまずAkt-mTORシグナルに着目しました。PtenKOマウスではAkt-mTORシグナルが活性化していましたが、mTORの活性を阻害してもPtenKOによるサテライト細胞の減少はレスキューされませんでした。このことから、Akt-mTORシグナルはサテライト細胞数の減少に関与していないことが分かりました。

 次に著者らはAkt-FOXO1-Notchシグナルに着目しました。PtenをKOするとFOXO1の細胞質移行が促進されており、Notchの標的遺伝子の転写が抑制されていることが分かりました。さらにFOXO1はNotch受容体の細胞内ドメイン(NICD)と結合するタンパク質であるRBPJkと結合し、Notchの標的遺伝子の転写を制御していることが分かりました。そこでNotchの活性をレスキューすると、PtenKOによるサテライト細胞の減少が抑えられ、休止期サテライト細胞の数が野生型と同じレベルまでレスキューされました。しかし、骨格筋の再生能力はレスキューされませんでした。これはNotchシグナルを活性化したことによって自己複製が促進され分化が阻害されたためだと考えられます。最後に著者らはPtenとNotchシグナルの間には様々なシグナル経路のクロストークが存在し、骨格筋の再生を制御するとまとめています。


by Fujii-group | 2017-02-15 11:01 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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