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ラボミーティングの内容

F市さんのJC

Cell Stem Cell. 2014 Feb 6;14(2):174-87.
Fundamental differences in dedifferentiation and stem cell recruitment during skeletal muscle regeneration in two salamander species.
Sandoval-Guzmán T, Wang H, Khattak S, Schuez M, Roensch K, Nacu E, Tazaki A, Joven A, Tanaka EM, Simon A


 漫画「ドラゴンボール」のピッコロ大魔王をご存じでしょうか。彼は闘いによって腕を怪我すると、自らその腕を切り離し、一瞬にして正常な(怪我は治癒済み)腕を再生させることができます。僕は、これは人類が目指す究極の再生医療の姿だと思います。しかし、ピッコロ大魔王は哺乳類ではなくナメック星人で、ヒトがこのように手足を再生することは今のところ不可能です(というか漫画の世界)。

 そんな空想にふけながら、筋肉の再生医療に関する文献を検索していると、今回紹介する論文を見つけました。「Newt(イモリ)とAxolotl(ウーパールーパー)では、腕切断後における筋肉の再生メカニズムが違っていた。」という内容です。これらのサンショウウオの仲間は腕が切断されると、まず芽体(がたい)という未分化細胞の集合体が作られて手足が生えて来ます。しかし、その詳しいメカニズム、特に芽体の筋芽細胞は何に由来するのかは分かっていませんでした。本研究では、生きた動物の筋線維を標識して、再生した筋が何の細胞由来であるかを調べました。

 この研究での方法のポイントは「Tol2トランスポゾンシステム」と「Cre-loxpシステム」を組み合わせて、筋線維を特異的に標識したことです。トランスポゾンによって、ゲノム中に「loxp-mCherry-stop-loxp-YFP」というカセットを組み込み、筋特異的プロモーターを利用したCreを発現させ、筋線維のみYFPが発現するようにしています。
 まず、イモリの腕を標識し、切断後に再生した腕の筋細胞がYFP陽性か(元は筋線維だったのか)を見たところ、再生した部分にYFP陽性細胞が確認されました。また、再生時のYFP陽性細胞は、MHC(筋分化マーカー)の発現が消えていること、EdUやPCNA(増殖マーカー)が陽性であることから、Newtでは筋線維が脱分化、増殖して、新たな筋線維を作った可能性が示されました。
 一方、Axolotlについても同じ処置を施したところ、Newtとは対照的に、再生した部分にはYFP陽性細胞が存在していませんでした。また、これを確認するため、筋細胞が融合するとCherryが発現するように仕込んだ実験系を使ったところ(Cre-loxp系、タモキシフェン誘導系を利用)、やはりCherryの発現は再生部分では全く観察されず、Axolotlには筋線維が脱分化して増殖する機構がないことが示されました。そこで、GFPトランスジェニック中胚葉を移植することで、サテライト細胞(筋線維も含む)を標識すると、GFP陽性細胞(つまりサテライト)が腕の再生に寄与していたことが分かりました。Axolotlでは筋線維が脱分化せず、骨格筋の幹細胞であるサテライト細胞が増殖して新たな筋線維を構築していることが示されました。
F市さんのJC_b0136535_1914835.jpg

 「筋線維の脱分化」という現象はとても魅力的ですが、それを示すデータは少々説得力に欠けるように思われました。Newtの場合は、エレクトロポレーションによってプラスミドを導入しているのですが、YFPで標識できた筋線維はわずか5%でした。それならば、Axolotlの系のようにトランスジェニック動物を使ってみれば良いと思うのですが、行われていません(実験の限界があるのかもしれません)。
 筋の再生医療を研究する上で、このような生物のメカニズムを理解することは新たな治療法の開発につながると期待されます。
by Fujii-group | 2014-09-12 19:14 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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