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ラボミーティングの内容

T村君のJC

先日行われたJCのまとめです。まとめ方や発表がとても明確でわかりやすく、面白い論文でした。

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Nature Communications 4:2354. doi: 10.1038/ncomms3354; 2013 Aug. 23
MG53-induced IRS-1 ubiquitination negatively regulates skeletal myogenesis and insulin signalling
Jae-Sung Yi, Jun Sub Park, Young-Mi Ham, Nga Nguyen, Na-Rae Lee, Jin Hong, Bong-Woo Kim, Hyun Lee, Chang-Seok Lee, Byung-Cheon Jeong, Hyun Kyu Song, Hana Cho, Yoon Ki Kim, Jae-Seon Lee, Kyong Soo Park, Haksub Shin, Inho Choi, Seung Hee Lee, Woo Jin Park, Shi-Young Park, Cheol Soo Choi, Peihui Lin, Malith Karunasiri8, Tao Tan, Pu Duann, Hua Zhu, Jianjie Ma & Young-Gyu Ko

今回のジャーナルクラブでは、骨格筋の細胞膜を修復するタンパクとして見つかってきたMG53 ( Mitsugumin 53 ) が、IRS-1をユビキチン化して分解に導くことで、筋形成やインスリンシグナルを負に制御するという論文を紹介しました。

≪背景≫
骨格筋と心筋に発現しているMG53は、主に細胞膜近傍に分布する小胞に局在し、細胞膜が損傷を受けると細胞外からの酸化ストレスによりシステイン残基同士がジスルフィド結合を形成して多量体化し、細胞膜の修復に作用することが知られています [1]。
このMG53は、N末端側からRing, B-box, Coiled-coil, PRY, SPRYドメインを持っており、RBCC / TRIMファミリーに属しています。RingドメインはE3ユビキチンリガーゼとしての機能が知られており、MG53は細胞膜修復の機能の他に、何からのタンパク質を基質としてユビキチン化を促す機能があるのではないかと予想されていました。
著者らのグループは、C2C12筋芽細胞にアデノウイルスベクターを用いてMG53を過剰発現させると筋形成が抑制され、siRNAを用いてMG53をノックダウンすると筋形成が促進されることを見出し、MG53はIRS-1を抑制し、IGFシグナルを調節することが示唆されていました [2]。

≪論文の内容≫
本論文では、まずMG53のRingドメインがIRS-1のユビキチン化にもたらす作用を検討しました。Ringドメインの欠損型および点変異型のMG53をC2C12 細胞に導入したところ、IRS-1のユビキチン化、IRS-1の分解、IGFシグナルの抑制が見られないことから、MG53のRingドメインのE3リガーゼとしての機能を確認しました。
さらにIRS-1はインスリンシグナル伝達機構の中心的タンパク質であることから、MG53のインスリンシグナルへの関与を検討しました。すると、C2C12細胞へのMG53過剰発現によってインスリンシグナルが抑制され、逆にMG53ノックアウトマウスの摘出骨格筋においてはインスリンシグナルの亢進が確認されました。また興味深いことに、MG53ノックアウトマウスでは高脂肪食を与えてもインスリン抵抗性をはじめとするメタボリックシンドローム様の形質を示さないことが明らかになりました。
これらの結果から、2型糖尿病などの代謝異常状態でMG53の発現が増えているのではないかと予想されますが、著者らはdb/dbマウスや高脂肪食マウス、2型糖尿病のヒトの骨格筋ではMG53のタンパクレベルでの発現量の増加は確認できなかったと結論づけています。一方で、今回紹介した論文とほぼ同内容の報告[3]では、高脂肪食マウス、db/dbマウス、自然発症高血圧ラット、メタボ状態の霊長類などで骨格筋におけるMG53の顕著な発現増加を報告しており、見解が割れています。

≪まとめ≫
一連の結果から、MG53は2型糖尿病をはじめとする代謝系疾患の新たな標的因子となりうると考えられます。しかしながら、先行研究においてMG53は骨格筋の細胞膜を修復する機能を有し、MG53ノックアウトマウスは進行性の筋ジストロフィー様の表現型を示すことが報告されています[1]。従って新たなインスリン抵抗性治療法の開発には、細胞膜修復の機能を損なうことなく、MG53のRingドメインの作用のみを抑制するか、あるいはIRS-1とMG53の結合を特異的に阻害する方法を検討する必要がありそうです。

[1] Cai et al., (2009) Nature Cell Biology
[2] Lee et al., (2010) Cell Death & Differentiation
[3] Ruisheng et al., (2013) Nature
by Fujii-group | 2013-11-15 07:18 | ラボミーティングの内容 | Comments(0)

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